2015年 11月 16日
天城高原の別荘とその後 |
この時期になると以前、松井建築研究所で設計・監理をさせていただいた天城の別荘を思い出す。
建主のご夫妻は、私達とほぼ同じ年代であり、松井の質感のある作風を気に入って下さり設計のご依頼下さった。一番最初にお会いした時、「松井さんにデザインはおまかせしますが、外観は決して目立たず普通で、内部は無垢材を沢山使った膨らみのある豊かな空間にしてほしい。そして設備機械類に関しては私の希望が沢山あるので、一緒に考えていただきたい。」という率直な申し入れがあった。「はい、分かりました。」としっかりお答えしてスタートした。
天城高原は伊豆半島の中でも一番高い所に位置し、海側の低い所と違い眺望の美しい自然公園の中であった。夏は避暑として最適な所であるが、冬はかなり冷え込み雪も降る。そしてなんといっても湿気問題が大きかった。
断熱材は調湿効果もある寒冷地仕様のサーモウールを入れ、窓建具は木製サッシでガラスはLow-E防犯ガラスとのペアガラスとし、外側には電動シャッターも設置し万全の対策を取ったが、天気の良い日には窓を大きく開け、天城の四季の空気三昧もお願いした。
そして暖房は、60坪の広さを暖める能力のある薪ストーブ=デファイアントを望まれ、補助暖房としてこちらから推薦した温水暖房が設置された。床暖房も望まれたが、床は重厚さのある巾広のチーク無垢板とする為、そちらを優先する事になり床暖房はしなかった。
湿気対策として必要場所に換気扇を設置と共に排気量によって湿気を調整するアイレコ(フランス製)を取付、東京の自宅からも状況を把握できるシステムを導入した。その他冬の間の配管凍結防止策も万全を配した。
ここまではそれほどの困難もなくやり過ぎではとの懸念も少しはあったが、スムーズに事は運んだ。
難関は、薪ボイラーだった。設計初期段階でその話が出た時には、調べはしたものの本気で設置することもないだろうなどと軽く見ていたが、実施設計に入っても建て主の気持ちは固かった。だんだんこちらも本気になって薪ボイラーたるものを研究し始めた。通常は外で使用し中にいれたり、他の配管と連結させるものではない。しかしそれを給湯の配管として給湯器と同じ様にセッティングし、薪ボイラーで炊いたお風呂も楽しみたいと言う。建て主の本気と熱意が現場まで続き、設備屋さん達にも伝わり、切り替えれば薪ボイラーで湧かしたお風呂にも入れる事になった。そして使用条件を十分説明して引き渡した。
完成して1年目の冬、建て主から「泊まりに来ませんか?」というお誘いを受けた。設計者としてなかなか経験できる事ではないし、色々な所もチェック出来るし、畏れ多い事ではあったが行かせていただく事にした。そして驚きと感動の連続だった。
到着したのは12月で雪が降った後だった。天城高原のバス停まで車で迎えに来て下さり、その足で新しく完成した薪小屋を見せていただいた。
別荘完成から1年間、建て主は奥様とこの薪小屋を作っていたと言う。
その苦労話を聞き、お二人のここでの生活の本気度を強く感じた。
そしてその完成度の高さに驚いた。私達に一番見せたかったようだ。
その薪ストーブと薪ボイラーの為の薪を切る機械を見せていただき、実演までして下さった。
これまた、本格的!!!
道路側から見える煙突2本。手前が薪ボイラーので奥のが薪ストーブの煙突。
内部は無垢板をふんだんに使った大空間。
薪ストーブの暖かさは格別で、火を消した後も家中が暖かく他の暖房はいらない。
薪ストーブの左横にご夫妻で作った薪小屋の模型がおいてある。薪小屋の写真集も見せていただいた。すごい気の入れ様だ。
翌早朝見た光景、遠くに相模湾が見える。
薪ボイラーで炊いたお風呂は、暖まり方が違うと言う。やさしい暖かさなのだそうだ
給湯器との差は体験出来なかったが、伊豆石のお風呂はとても気持ち良かった。
親子のような母屋と薪小屋
建て主ご夫妻は建物を大変気に入って下さり、ここでの生活を1年を通してエンジョイされているそうだ。その苦労話と楽しいお話を伺いながら、奥様のおいしい手料理をいただいた。
最高の至福の時をすごさせていただいた。
by matsui-ken
| 2015-11-16 18:23
| 作品の紹介
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